赤ちゃんは、お母さんのお腹の中にいる胎児の頃は胎盤を通して、誕生後は母乳やミルクから栄養をもらいます。また、離乳後の食事も母親や周りから与えられたものを食べるので、自分で食べものを選んで食べるまでの栄養状態は、食育を含む食環境に大きく影響されます。
受精から2歳の誕生日までの1000日間(胎児期から乳幼児期)は成長・発達に重要な期間で、「人生最初の1000日間の栄養状態が、その子の残りの人生を左右する」とも言われています。この時期にもらうエネルギーが少なかったり、いくつかの栄養素が少なすぎたり、または多すぎたりすると、身体の成長や脳機能の発達が遅れて、のちに栄養状態が改善されたとしても身体の成長は追いつかず、将来的には成績不良や肥満、糖尿病、心臓病などの慢性疾患のリスクを高めることがわかってきています。
脳は胎児の頃から急速に成長し始めます。 脳細胞は、妊娠4週目で約1万個、24週目までには約100億個に増加し、出生時の新生児脳は成人脳の4分の1の大きさに、3歳までには約80%、5歳までには約90%にまで大きくなるといわれています。最初の1000日間に必要な栄養素は、葉酸、鉄、亜鉛、ヨウ素、ならびにタンパク質と脂肪酸(DHAとアラキドン酸)があり、特に脳の発達にはDHAとアラキドン酸は欠かせません。アラキドン酸は肉類や卵、魚介類など動物性食品に多く含まれています。発育中の赤ちゃんにとって母親の食事が唯一の栄養源であるため、母親の食事バランスや栄養状態がとても重要です。女性は妊娠前からの体作りの一つとして、赤ちゃんの発育に必須の栄養素をしっかり体内に貯め込めるような食事管理が必要です。日本では葉酸の摂取は強く推奨されていますが、その他の栄養素はどうでしょう? 脂質(脂肪酸)に関してはさほど情報がないのが現状ではないでしょうか。
日本では戦後の経済成長にともない平均身長が伸び、発育不良の割合が急激に低下しました。 しかし、最近では、低体重のまま生まれてくる赤ちゃんの多いことが問題になっています。2500g未満の低出生体重児の割合が先進国の中で日本は最も多く、女児では10%を超えています。これは、若い女性が極端なダイエット志向によって妊娠前に栄養不良に陥っていること、妊娠中の行き過ぎた体重コントロール(「小さく生んで大きく育てる」などと言った誤ったメッセージ)などが影響していると考えられます。日本の子どもたちの「人生最初の1000日間」の状況は、先進国の中ではバランスが崩れたかなり悪い状態にあるのかもしれません. 子どもの栄養を整えるためには、まずは母親となる女性の食事や栄養状態を見直す必要がありそうです。
◆あぶら博士プロフィール(詳しくはこちら)
*守口 徹 先生(薬学博士)
麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長
*原馬 明子 先生
麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授
※文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。