【SPコラム④】糖尿病

日本の糖尿病患者数は約950万人で、予備群を含めると約2050万人といわれています。
そのうちの90~95%の方が2型糖尿病です。この2型糖尿病患者数の増加は、「魚介類が中心であった日本食」から、「肉類や脂質の多い欧米食」に変化していったことで、高カロリーや高脂肪な食生活に、運動不足が重なって、血糖値を下げる働きのホルモンであるインスリンの分泌量や効き具合が低下したことが原因と考えられています。

最近、オメガ3脂肪酸(ω3系脂肪酸)には、脂質でありながら、インスリンを分泌するすい臓の働きを維持する効果があることがわかってきました。
高脂肪の餌で飼育したネズミにオメガ3脂肪酸(ω3系脂肪酸)を与えると、血糖値の上昇が緩やかになったり、2型糖尿病患者や肥満の人にオメガ3脂肪酸(ω3系脂肪酸)を3ヶ月間取ってもらうと、空腹時の血糖値やインスリン値が良好になったという報告があります。
また、日本だけでなく世界でも、魚をよく食べる食事スタイルが糖尿病の危険性を低下させるという発表がされています。

オメガ3脂肪酸(ω3系脂肪酸)は、「柔らかいアブラ」と説明したように、オメガ3脂肪酸(ω3系脂肪酸)がすい臓のホルモンを分泌する細胞の膜に充分に行き渡っていると、細胞膜の柔軟性が高まり、インスリン等の血糖値上昇を抑えるホルモンの分泌を円滑にしていると考えられます。

体重の増加や健康診断などでの血液検査の血糖値が気になりだしたら、身体を動かすことはもちろんですが、オメガ3脂肪酸(ω3系脂肪酸)が多く含まれる食材を意識して食事スタイルを変えることをおすすめします。


◆あぶら博士プロフィール(詳しくはこちら

*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

 

 

 

 

 

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授

 

 

 

 


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【SPコラム③】循環器系への影響

「循環器系」とは、血液やリンパ液を循環させる器官の通り道、すなわち、心臓、動脈、静脈、リンパ管などを指します。
血液は、酸素や栄養素、ホルモンを各組織に運び、二酸化炭素や老廃物を回収してくれるのはもちろん、病原菌を退治する場でもあります。
つなぎ合せると地球2周半にもなる血管に中性脂肪が溜まって血液の粘度が上がったり、血管が固くなってしまうと身体の先端まで血液を行き渡らせるために、これまで以上の圧力が必要となります。その圧力を血管壁が吸収できなくなると、血管の崩壊にもつながってしまいます。 また、血液中の赤血球は、自身よりも小さい血管を通り抜けなければなりません。赤血球の柔軟性が損なわれても血管が詰まりやすくなります。
これらが、高血圧症、動脈硬化と言う重篤な疾患のリスクを高めることになります。また、この状態が続くと心臓にも負担がかかり、心臓の機能に関わる疾患のリスクが高まります。

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これら循環器系疾患には、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)がとても重要な役割を果たしていることが、グリーンランドのイヌイットの食事がきっかけでわかっています。
彼らの主食であるアザラシなどの海獣の脂質は、動物性脂質でありながら、魚介類をしっかり捕食しているので、豊富なオメガ3系脂肪酸(EPA、DPAn-3、DHA)を含んでいます。オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)は、血液中の中性脂肪を下げ、抗血小板凝集作用(血液を固まりにくくする)があります。俗に言う、血液サラサラ効果です。最近では、動脈硬化の進行を抑制する薬としても使用されるようになりました。

このように、オメガ3系脂肪酸は、循環器系の機能の維持に働いてくれるのです。


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【SPコラム②】眼と髪への影響について

頭皮は、皮脂腺や汗腺が全身で最も多く、顔や背中に比べて2~3倍あります。「肌」でお話したように、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)が不足すると頭皮の脂質バランスも崩れ、乾燥し、フケや髪のツヤに影響することが十分考えられます。また、毛髪が薄いヒトは頭皮が硬く、水分量が低いという報告もされていますので、発毛や育毛にとっても頭皮の潤いや脂質バランスは大切ですね。

ペットフード(特にドッグフード)にはオメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)があまり含まれていないものが多く、イヌの被毛トラブルが多い場合は、ドッグフードの成分表示や栄養表示欄をチェックしてみるのもいいと思います。オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)は入っているでしょうか? うちのワンちゃんにオメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)のサプリメントを与えるとフケが減って、毛艶や毛並みが良くなったということも良く聞かれます。

眼も皮膚と同じく外界に接していますよね。眼は、皮脂ではなく、涙で保護されています。 涙は、眼球(角膜)側から粘液層、水層、油層の3層構造でできています。粘液層は、結膜と 言うところから分泌され、水分を眼球表面に接着させてくれます。水層は、涙腺からでる本来の涙の成分、ドラマを見ると時々壊れるやつです。油層は、瞼の内側にあるマイボーム腺という器官から分泌され、涙を覆って蒸散を防ぎます。油状の涙は、皮脂と同じように飽和脂肪酸や極長鎖と言われるとても長い脂肪酸が多く、これが少なくなると、水分が蒸発しやすくなり、涙液乾燥タイプのドライアイになります。この油状の涙をスムーズに分泌するには、マイボーム腺の細胞膜をオメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)、特にドコサヘキサエン酸(DHA)で柔軟にする必要があるようです。オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)が不足しているネズミの涙量を測ってみると、正常のネズミよりも約40%も涙量が減っていましたが、彼らにオメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)を1週間与えると、涙量は元に戻りました。

お化粧でマイボーム腺の分泌口を塞いでも ドライアイ症状が起こるので注意が必要ですよ。

 


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【SPコラム①】肌への影響

油博士コラムSP(スペシャル)の連載をスタートいたします!

オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)の必要性を日々の研究、実験のエピソードも交えながら、また違った角度からお伝えできればと思います。

第1回目は肌についてです。

肌や髪、眼などは直接外界に接しているので、潤いもなくカサカサだと少しの刺激で痒くなったり、雑菌などが侵入しやすくなります。みなさん、日頃からどのようなお手入れをされていますか?化粧水をたくさんつける?保湿クリームを塗る?潤いは水分の補給だけでは維持できません。実は、この皮膚のバリアの仕組みにオメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)が大きく関わっているんですよ。

 

皮膚の表面はトリグリセリド(中性脂肪)やワックス、スクアレンといった脂質(皮脂)で覆われています。また、表面を弱酸性に保つことでバクテリアなどの増殖を抑えて感染を防いでいます。皮脂中の脂肪酸としては、ステアリン酸やオレイン酸、パルミチン酸など、空気に触れる場所なので「酸化」しにくい飽和脂肪酸やオメガ9系脂肪酸(ω9系脂肪酸)が多く含まれています。

皮膚は真皮(内側)と表皮(外側)でできています。
真皮には皮膚(肌)の弾力を保つためにコラーゲンなどを生成したり、異物を排除する細胞が存在しています。

 

表皮は外界とのバリア機能を保つために、4層構造をしています。表皮の一番深いところにある細胞が少しずつ形や性質を変えながら約2週間かけて表皮に押し上げられ、さらに約2週間かけて角質として積み重ねられ、最終的には垢となって剥がれ落ちます。このように、表皮(皮膚)は、約1ヶ月かけて新陳代謝(ターンオーバー)しながら、絶えず新しい細胞に入れ替わっています。そして、その厚さはたった0.2 mm程度!と、とても薄い部分でのお話です。

 

また、表皮の一番深いところの細胞から垢として細胞が剥がれおちるまでの移動は水分を必要としているため、水分が少ないと新陳代謝が滞り、角質の細胞同士が混み合い、皮膚表面が硬化(角化)し、ひび割れや乾燥をしてしまいます。そのため、角質の細胞間も皮脂で隙間を埋めて水分を維持しています。細胞間の脂質は、セラミド、脂肪酸、コレステロールなどを主成分とし、極長鎖と言われるとても長い飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸(ω6系脂肪酸)のリノール酸が含まれています。

このように、皮脂や角質に必要な油は飽和脂肪酸やオメガ9系脂肪酸(ω9系脂肪酸)、オメガ6系脂肪酸(ω6系脂肪酸)、コレステロールです。しかし、その皮脂を分泌したり、表皮の正常な新陳代謝を促して老廃物(シミ)が蓄積しないようにするためには、どうも、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)が必要のようです。

 

実際、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)の入っていない餌で飼育したネズミ(オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)欠乏ネズミ)の手のひらはガサガサで、試験器具のレバーを押してもセンサーが反応しないことがありました。 私たちと同じように、ハンドクリームを塗ると、レバーのセンサーが正常に機能しスイッチが入りました。まるで、潤いのない状態でスマートフォンを触っても反応しない時のようです。また、マウスも加齢とともに表皮の水分含量や水分蒸散量が下がっていくのですが、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)欠乏ネズミの皮膚は、水分蒸散量の低下が、正常マウスに比べて著しく低下していました。

ω3系脂肪酸は、華やかな表面にはできてきませんが、縁の下ではしっかり仕事をしてるんですよ。

 


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*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

 

 

 

 

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授

 

 

 

 


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【油博士コラム①】油博士のご紹介

7月よりマルタのえごまで新連載「油博士コラム」がスタートします!

今回はこれから油について詳しく教えていただく
お二人の油博士をご紹介いたします。

 

*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

1982年 横浜市立大学を卒業後、製薬会社の薬理部門に勤務。国立がんセンター研究所、東京大学薬学部に研究出向後、同大学で博士号を取得。1997年 客員研究員として米国国立衛生研究所(NIH)で脂肪酸と脳機能を研究。2008年より現職。
主にマウスを用いて必須脂肪酸であるオメガ3系脂肪酸の有用性を「妊娠・胎児期、乳幼児期、成熟期、老年期」の4つのライフステージ別に研究している。ω3系脂肪酸の有用性を広めるべく日々、啓蒙にも取り組む。

NHK『ガッテン!』、テレビ朝日『林修の今でしょ!講座』などテレビ・ラジオの出演多数。
著書『スプーン一杯で認知症を防ぐ!えごま油健康法』(アチーブメント出版株式会社)、『カラダが変わる!油のルール』(朝日新聞出版社)等

 

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授

京都工芸繊維大学大学院を修了後、2003年に湧永製薬株式会社 ヘルスケア研究所、2009年からは日本水産株式会社 生活機能科学研究所で、行動薬理を中心に、ω3系脂肪酸に関する研究を行い、2011年には京都工芸繊維大学で博士号を取得。その後、麻布大学で2011~2015年 特任助教、2015年より特任准教授として勤務。
現在、次世代の笑顔を増やすべく、周産期(妊娠・授乳期)、新生児・乳幼児期、生殖期(妊活期)の脂質栄養を中心に研究を行っている。

 

毎日のように食べる油ですが、意外と知らないことばかり…
月に1回、油について様々なテーマで情報をお伝えしていきます♪

7月からの連載をお楽しみに!

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