昨年からコロナウイルス感染禍の影響で、妊婦さんには大きな負担と不安が生じています。
産科では、普段なら分娩時期の近い妊婦さんたちを集めて、出産、育児に向けての母親学級や両親学級が開催されているのですが、現在は休講になっているところがほとんどです。
定期的に通院する妊婦検診も感染のリスクを高める原因となってしまい、妊婦さんにとっては不安だらけです。
さらに、里帰り出産を規制しているクリニックも多く、前もってPCR検査を受けるなどしていないと出産を受け入れてもらえない状況です。
こんな環境では、いくら健康な状態であっても妊娠中のちょっとしたトラブルや出産に対して不安が募るばかりです。いくつかの研究所の調査では、例年に比べて妊婦さんのメンタル障害が増えているという報告があります。
もともと、妊娠や出産で変動する女性ホルモンとメンタルの変化には大きな関係があると言われています。そして、驚くことに、魚介類の消費量と産後うつは逆相関、「魚介類を食べないほど、産後うつになるリスクが高まる」とも報告されています。
この原因としては、妊娠後期から母体が胎児に必須脂肪酸であるDHAを大量に供給するのですが、母親自身が食事から摂取するDHAが少ないと、脳や肝臓に蓄えていたDHAまでも切り崩して胎児に与えている可能性が考えられています。
厚生労働省は、大型魚類に含まれるメチル水銀の胎児への悪影響を避けるため、魚介類の摂取を制限するように妊婦さんへ注意喚起しています。しかし、魚介類からは良質なタンパク質やEPA、DHAを効率よく摂取できることから、魚介類を食べないで生じるリスクよりも、オメガ3系脂肪酸を摂取して得られるベネフィットの方がはるかに大きいととらえ、問題ない種類の魚介類を積極的に摂りたいものです。
◆あぶら博士プロフィール(詳しくはこちら)
*守口 徹 先生(薬学博士)
麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長
*原馬 明子 先生
麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授
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