油博士コラムSP(スペシャル)の連載をスタートいたします!
オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)の必要性を日々の研究、実験のエピソードも交えながら、また違った角度からお伝えできればと思います。
第1回目は肌についてです。
肌や髪、眼などは直接外界に接しているので、潤いもなくカサカサだと少しの刺激で痒くなったり、雑菌などが侵入しやすくなります。みなさん、日頃からどのようなお手入れをされていますか?化粧水をたくさんつける?保湿クリームを塗る?潤いは水分の補給だけでは維持できません。実は、この皮膚のバリアの仕組みにオメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)が大きく関わっているんですよ。
皮膚の表面はトリグリセリド(中性脂肪)やワックス、スクアレンといった脂質(皮脂)で覆われています。また、表面を弱酸性に保つことでバクテリアなどの増殖を抑えて感染を防いでいます。皮脂中の脂肪酸としては、ステアリン酸やオレイン酸、パルミチン酸など、空気に触れる場所なので「酸化」しにくい飽和脂肪酸やオメガ9系脂肪酸(ω9系脂肪酸)が多く含まれています。
皮膚は真皮(内側)と表皮(外側)でできています。
真皮には皮膚(肌)の弾力を保つためにコラーゲンなどを生成したり、異物を排除する細胞が存在しています。
表皮は外界とのバリア機能を保つために、4層構造をしています。表皮の一番深いところにある細胞が少しずつ形や性質を変えながら約2週間かけて表皮に押し上げられ、さらに約2週間かけて角質として積み重ねられ、最終的には垢となって剥がれ落ちます。このように、表皮(皮膚)は、約1ヶ月かけて新陳代謝(ターンオーバー)しながら、絶えず新しい細胞に入れ替わっています。そして、その厚さはたった0.2 mm程度!と、とても薄い部分でのお話です。
また、表皮の一番深いところの細胞から垢として細胞が剥がれおちるまでの移動は水分を必要としているため、水分が少ないと新陳代謝が滞り、角質の細胞同士が混み合い、皮膚表面が硬化(角化)し、ひび割れや乾燥をしてしまいます。そのため、角質の細胞間も皮脂で隙間を埋めて水分を維持しています。細胞間の脂質は、セラミド、脂肪酸、コレステロールなどを主成分とし、極長鎖と言われるとても長い飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸(ω6系脂肪酸)のリノール酸が含まれています。
このように、皮脂や角質に必要な油は飽和脂肪酸やオメガ9系脂肪酸(ω9系脂肪酸)、オメガ6系脂肪酸(ω6系脂肪酸)、コレステロールです。しかし、その皮脂を分泌したり、表皮の正常な新陳代謝を促して老廃物(シミ)が蓄積しないようにするためには、どうも、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)が必要のようです。
実際、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)の入っていない餌で飼育したネズミ(オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)欠乏ネズミ)の手のひらはガサガサで、試験器具のレバーを押してもセンサーが反応しないことがありました。 私たちと同じように、ハンドクリームを塗ると、レバーのセンサーが正常に機能しスイッチが入りました。まるで、潤いのない状態でスマートフォンを触っても反応しない時のようです。また、マウスも加齢とともに表皮の水分含量や水分蒸散量が下がっていくのですが、オメガ3系脂肪酸(ω3系脂肪酸)欠乏ネズミの皮膚は、水分蒸散量の低下が、正常マウスに比べて著しく低下していました。
ω3系脂肪酸は、華やかな表面にはできてきませんが、縁の下ではしっかり仕事をしてるんですよ。
◆あぶら博士プロフィール(詳しくはこちら)
*守口 徹 先生(薬学博士)
麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長
*原馬 明子 先生
麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授
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